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忘れたい、1と10。
その中で俺は少年だった。
忘れたい、1と10。
その中で俺は、言った。
「ここに居たくない」
忘れたい、1と10。
その中で誰か、懺悔していた。
忘れたい、1と10。
その中で妹は、逃げ出した。
忘れたい、1と10。
その中で俺は、懺悔を聞いた。
忘れたい、1と10。
その中で俺は、思っていた。
「ここに居たくない」
忘れたい、1と10。
彷徨って、見つけた。
暗い、部屋だった。
前に座る女の顔は見えず、
ただその懺悔を聞いていた。
妹の伯母だった女のはずだ。
妹を探して辿りついたが、
妹はすでに逃げ出していた。
ならばここに用は無いはず。
しかし俺は動けないままにいた。
なぜかその懺悔を聞いていた。
浮かぶのは二つ、
「幼い妹の木に寄り添う姿」
「ここに居たくないと言う思考」
ここに用は、ない。
心は全く焦りを知らず、
それどころか静けさを保っている。
ただ、その懺悔を聞いていた。
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活きている、価値の無い人間だ。
最近は、興味心、探究心、と言うものが薄くなってきた。
「好奇心」。知ることに対する欲求。
未知を。知へ。無い。
ただ、それと同時に気づいたのが、欲求。
まだ見たことのない景色へ行きたい。
矛盾、ではない。
水溜りに浮かべられた蟻が陸を求めてもがくように、
陸に打ち上げられた魚が海を求めて跳ねるように、
感じるのは、息苦しさ。
溢れてくるのは生へしがみつくかのような、衝動。
俺を知るもののいない世界へ。
まだ見たことのない景色へ。
速く。早く。速く。早く。
焦燥感。
疾走、
衝動、
窮屈、
空気、
呼吸、
出来、
る、
所へ、
まだ、まだ、まだ、まだ、
いつまで―
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だって、そうだろう?
僕らが繁殖するこの青緑の惑星は、
誕生から数えて46億年ここに在り続けている。
今から46億年前に誕生したこの惑星で、
21億年前の前後6億年程に、シアノバクテリアによって、
当時では爆発的なエネルギーを持つ、酸素が大量発生した。
そして、同時にその莫大なエネルギーによって生きる、
それまでよりも進化力のある生物も誕生した。
つまり、だ。
理屈は別としても、
21億年前に始まったレースに、
もしくは、48億年前に始まったレースに、
一着でゴールしただけなのだ。
”億年”という壮大な単位であっただけで、
もう一歩の種族が、二着、三着に、居るのかもしれないだろう?
”言葉””文化””文字””気持ち””道具””思考”
そういったものを無視したって、
”輪廻”を断ち切ろうとする種族が現れて、
限りなく繁殖を繰り返すのならば、
それは、ただ、一着になれなかっただけかもしれないだろう?
だからと言うわけじゃないけれども、
空しい、夢、みたいだ。
地球を、真っ二つに割ってみたい。
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何も無いのに、焦燥感。
何も無いのに、従属感。
何も無いのに、拘束感。
何も無いのに、だから。
何も無いから、絶望感。
何をしたところで、駄目だろう。
もうすでに、立ち止まってしまったから。
目的も無いのに、理由も無いのに。
一定の方向に歩くのは、苦痛だ。
そっちに、行かなければならない。
皆が、そっちに歩いていくから。
なるべく同年代と一緒が好ましい。
前にも後ろにも、迷惑がかからないから。
足並を揃えて歩け、僕ら軍隊。
何かの命で、皆がそっちに歩く。
だろう?
目的も無いのに、理由も無いのに。
一定の方向に歩くのは、苦痛だ。
だから。
ほら。
ボクは出かけるんだ。
ツレナイ運勢と、手を繋いで―